雪うさぎの初恋


 

「雪うさぎの初恋」

著:もなみ。 

■あらすじ
大好きな正志お兄さんに縁談の話がきた。お春の初恋は、あっという間に溶けてしまう。しかし、ずっと好きだったマサにぃへの想いは止められなくて。この想いが溶けてなくなってしまえばいいのに。それは、雪うさぎの初恋。

 

============================

 

この想いが溶けてなくなってしまえばいい。

 

寒さの厳しいこの季節は、雪が降る。まだまだ雪は降り続いて、春は当分来なさそうだった。

「お春、寒いのに、こないなとこでどうしたんや」
そう、やさしく呼ぶ声がとても愛おしい。
正志お兄さんとは、近所づきあいで小さなころからよく遊んでもらっていた。本当の兄妹のように仲良しだった。
「マサにぃを待ってたんや。そろそろお勤め終わるかて」
「お春は寒いの嫌いやろ?」
マサにぃの顔を見ただけで寒さなんて吹き飛んでしまった。
「私の名前はお春やから春が好きなんや」
そんな冗談を言って笑いあう。あったかくて心地よい。
隣にいるのが当たり前だった。どんな時も一緒にいてくれる、それがマサにぃ。

マサにぃに恋心を抱き始めたのはいつからだっただろうか。

 

***

家へ帰ると、お母ちゃんがえらく慌ててわたしのもとへ飛び込んできた。
「お春、祝いやで」
「祝い事?」
お母ちゃんの喜ぶ顔を見たら、なんだか嬉しくなった。

「隣のマサくんに縁談の話がきたんよ」
わたしの頭は真っ白になった。さっきまでの嬉しさはあっという間に凍りついた。

縁談…?お見合いするってこと?
信じたくはなかった。しかし、マサにぃはもう結婚をしてもおかしくない歳。いつかは、この日がきてしまうことをわかってはいた。しかし、目の前に広がる現実は想像以上に酷だった。マサにぃにとって私は妹のような存在だろう。私の気持ちなんて知るはずもない。

笑いあってお喋りをするだけで幸せだった。この幸せが永遠に続くものだと思っていた。

一緒にいるだけでいい。ただ、それだけでいい。

どこにも行かないで。

 

 

 ***

 

つぎの休みにマサにぃに遊んでもらうことになった。玄関を出ると昨日の雪が見事に積もり見渡す限り一面、真っ白だった。太陽に照らされキラキラと輝く雪はとても美しかった。

寒さがとても苦手だったが、雪が降るとマサにぃは、よく雪うさぎを作ってくれた。それが嬉しくて冬になると、寒いのは嫌だけど雪が降らないかなぁ。と思いながら夜の窓を眺めていた。

「お春」
マサにぃがそう私を呼ぶと、冷たい雪を私の頬にあてた。
あまりの冷たさに「ひゃっ」と声をあげると、マサにぃは太陽のような笑顔で私に笑いかけた。この笑顔が眩しい。今の気持ちが悟られないようにするのに必死だった。
「なんやの!?私が寒いの苦手なん知っとるやんっ」
すると、手に持っていた雪を私に差し出した。
「あ、雪うさぎ」
マサにぃのうさぎは、まんまるで大きかった。きっと、私より手が大きいからだ。
「元気、でたか?」
マサにぃは、私が元気のない時によく雪うさぎを作ってくれた。

マサにぃには何でもわかってしまうのか。私に元気がないことも。
ああ、この人が本当に好きだ。好きで好きで仕方ない。
しかし、そんなマサにぃが遠くへ行ってしまうことが、とても悲しく複雑な気持ちだった。

「なあ、そない急な話なん?」
主語がない会話だったが、マサにぃは私が何を言いたかったのか察してくれた。
マサにぃは困ったように頭を書いた。そして話をはぐらかす。
「お春の祝言は、きっとキレイやろうな」

風が吹いた気がした。胸がきゅーっとして、どうしようもなかった。嬉しいはずなのに、苦しくて仕方なかった。

「なあ、マサにぃ…マサにぃは…」
つぎの一言を言ってしまったら、マサにぃの幸せをつぶしてしまう。
「どうしたん?そないな悲しそうな顔して。お春は笑った顔が一番可愛えぇ」

なあ、マサにぃ。マサにぃはわたしのこと、どう思うとるん?

そんな優しい声でわたしの名前を言って、やさしく頭を撫でてくれる。祝言の相手がわたしならええのに。

「…お見合いの話、なくならんかな」

そう、つぶやいてしまった時には遅かった。しまった、と思った。

「お春は反対なん?」
「…ほ、ほしたらマサにぃと、もう遊べなくなるかもしれん」

必死にはぐらかした。しかし、マサにぃは真剣な表情でわたしを見つめる。

「なあ、お春は、人を好きになったことあるか?」
透き通る瞳が眩しかった。胸の高鳴りが止まらなかった。
その好きな人はマサにぃなんよ、そう言いたかった。

マサにぃはわたしの髪をなでると、ゆっくりと顔を近づけてきた。マサにぃの瞳が閉じると同時に、私は自然と目を閉じた。しかし、マサにぃはその場からゆっくりと離れた。
「ごめん、なんでもない」
とても切ない表情だった。どう声をかけたらいいかわからなかった。

マサにぃの悲しそうな顔が脳裏から離れなかった。

「ほな、もう遅いで、また明日な」

マサにぃは慌ただしく、家へ帰って行った。その足取りをわたしは、ただただ見つめていることしかできなかった。持っていた雪うさぎが手の熱で溶けてしまいそうだった。

もしかして、マサにぃも同じ気持ちなのではないだろうか。それとも、髪の毛に何かついていたのだろうか。
どちらにせよ、わたしの心臓の音は止まることを知らなかった。

もしこの気持ちがマサにぃと同じなら、絶対に他の娘のところへなんて行ってほしくなかった。

わたしを選んで。

心の中で叫び続けた。

 

 ***

 

「マサくんの縁談な、順調らしいで」
期待とは裏腹に、マサにぃの縁談がなくなることはなかった。お母ちゃんの言葉が私の胸をグサグサと突き刺す。しょぼくれる私をお母ちゃんは気づいたのか、顔をじっと見つめてきた。ドキッとして「なんや?」とはぐらかすと
「マサくんが遊んでくれなくなるから、さみしいんやな」と、お母ちゃんに言われた。
もう、そんな子供やないんやけどな。そう思いながらも「そうやな」と返事をした。

「まぁ、仕方ないやん。お互いの家の為にマサくんは、あちらさんとこに婿入りするんやから」
「え…?」
「マサくんの親父さんがな、お店続けて行くん厳しいらしいねんけど、なんや援助してくれはったとこの御嬢さんを是非にってことでな。代わりに婿がほしいて噂でな」

お母ちゃんのその言葉を聞くと、もう希望は持てなかった。
親父さんが大変な時、いつも仕事を手伝っていたマサにぃの顔を思い出す。いつも親父さんのためにしてきたマサにぃにとって、最高の親孝行になるだろう。

それから、私はマサにぃの仕事を待つのをやめた。遊びにも誘えなかった。
どんどん、遠くなる距離。
これでよかったんだ。私が大好きなマサにぃにできることは、これが精一杯だった。

 

***

「お春!」
久々に聞いた声なのに、すぐに誰だかわかった。
「マサにぃ…」
胸がいつもより、きゅーっとなって苦しかった。会いたかった。けれど、あってはいけなかった。
どうして私はこんなに我慢したのに、マサにぃは私の前に現れてしまったの。

「久しぶりやのう、元気にしとったか?」

私はコクリと頷くだけしかできなかった。声に出したら、全てが止まらなくなりそうだった。
「なぁ、お春どうして最近は来ないんや?なんか悪いことしたか?」
祝言は明日だ。マサにぃが祝言にきちんと行けるように背中を押してあげるのが私の役目だ。

「なんも。マサにぃ離れ、慣れとかんとあかんなぁ、思てな」
マサにぃは悲しげな表情で「ずっと、会いたかったんで」とかすれるような声を出し、私の肩に頭をのせた。
ドキンっと心臓が飛び上がる。

「ごめん…」
私も会いたかった…ずっとずっと、会いたかったんよ。そう言いたかった。
マサにぃの背中に手を回し、服をギュッと掴んだ。ほんのりとマサにぃの香りがした。この声も、笑顔も、感触も、香りも全てが日常からなくなってしまうんだ。
「…マサにぃ」
目頭が熱くなり、気づくと涙を流していた。涙と一緒に想いが溢れ、マサにぃの名前を何度も何度も繰り返した。
マサにぃは強く、私を抱きしめた。強く、強く、痛いくらいに。まるで私の知らないマサにぃ。

マサにぃは私を離し、優しく頬を撫でた。
「お春、愛しとるよ。いつまでも」
私も。そう言いたかったのに言葉が出なかった。しかし、マサにぃは私の口の動きを見て、とても嬉しそうに目頭に涙を浮かべていた。

私たちは自然と引き付けられるようにお互いの唇を重ね合わせた。

この想いに後ろめたさなんて少しも感じなかった。ずっとずっと想いは一緒だったから。このまま好きでいることは許してもらえますか。

***

次の日、マサにぃは、祝言をあげた。

玄関に出ると、雪うさぎが2匹並んでいた。まんまるの大きな雪うさぎだった。
「…ありがとな、マサにぃ」
私のこの想いが永遠に溶けてしまわぬように、そっとこの雪うさぎを心の中にしまった。

幸せだった。溶けてしまいそうなくらいに。

============================

広告

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

w

%s と連携中