雨に迷い込んで


「雨に迷い込んで」

著:もなみ。 

■あらすじ

雨が嫌い。こんな日にデートだなんて最悪。そう思っていると、不思議な男の子を見つける。
デートのことなんかすっかり忘れてその男の子を追いかけて見たものとは…?

============================

 

雨だ。
薄暗くこの空を一瞬にして覆ってしまうほどの雲が憎い。

傘を持ってくるのを忘れてしまった。
今日は気分がのらないので帰ってしまおうか、なんて思った。

こんな日にデートだなんて。
「相当な気分屋だな」彼氏にそう言われたのは何回目だろうか。
だったら付き合ってくれなくていいのに。
所詮、人間なんて死ぬときは独り、孤独なんだ。この冷たい雨のように。
私の心は空っぽなのだ。

「やった、雨だ」
隣からのその声に振り返らずにはいられなかった。
ほっそりした首筋に、湿気を吸った髪がくるくるっとはねた男の子。絵にかいたような無邪気さがあった。
駅のホームを出ると、信号が青に変わる。
何故か私は、その子の後を追わずにはいられなかった。

わたしの嫌いな雨が、この男の子の眼にはどう映って見えるのだろう。
その眼には、どんな色に見えるのだろう。

水たまりをわざと踏むようにステップし、泥が撥ねる。
わ、最悪。普通ならそう思うはずなのに、男の子は楽しそうにステップを踏み続ける。
まるで、カエルが飛び跳ねているみたいに。

その色を知りたくて必死に追いかけた。

「あんた、なに?」
さすがに気づかれた。ストーカーだと思われてしまっただろうか。
「気になって。どうして雨が好きなの」
カエルくんはきょとんとした顔をしたが、「変わってんね」と空の薄暗さに負けないような眩しい笑顔を見せた。
「ついてくる?」
その言葉に心が躍った。知らない世界を見つけられそうな、冒険のようなドキドキが溢れだしそうだった。

どこにそんな道があったのだろう。
知らない道をはねるカエルくんがキラキラと輝いて見えた。
細い道を抜けると、開けた場所に出る。その場所だけ雨の降る音が違って聞こえた。木や植物にあたる雨の音や、ガラクタのように散乱している粗大ごみにあたる雨の音、腐った廃墟になった家の屋根にあたる雨の音。

彼は、そっと目を閉じて耳を澄ましていた。
すると、落ちていた木の枝を拾い、ひょいっとそれを軽々と振って見せる。

とん、とん、ととととっとん、
ザアアアアアアッ

違う音と違う音同士が混じる。
くるっとカエルくんの指揮で音がはねる、おどる。
まるで指揮通りに雨が奏でているようだった。
彼の眼に、どんよりとした空なんて見えていなかった。
見ているのは、ひとつひとつの音。ただそれだけだ。

湿った空気、雨の匂い、雨粒が落ちてあたる音。
すべてが美しく見えた。目に見えぬ美しさがそこにはあった。

指揮がピタッと止まると、音は消え、気づくと雨は上がっていた。

「どうでしたか、僕の演奏よかったらまた聴きにきてください」
「ぜひ、また聴かせて」

さっきの演奏の余韻に浸っていたが何か忘れているような気がした。
私は、ハッと我に返り、腕につけた時計を見る。
しまった…待ち合わせの時間を30分も過ぎている。
携帯電話をチェックしてみると、通知の嵐。折り返し電話をかけると、耳をつくような怒鳴り声。
キーンと耳が鳴る。またこの男は…と思った矢先「心配したんだぞ」と、か細い声が聞こえた。
付き合って初めてそんな声を聞いた。彼ときちんと向き合わなかったのは私の方だったのかもしれない。
私も悪かったな、そう思った瞬間、ぴょんっと今度は本物のカエルがはねた。
見渡すと、もうそこには男の子の姿はなかった。

まるで、不思議な夢を見ているようだった。

私はその場所を後にし、彼のもとへ急いで向かった。

 

 ============================

END

広告

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中