幸福のブックマーク


「幸福のブックマーク」

著:ウル

■あらすじ

入学式も終わってしばらくした春の日。ある日図書室に出る女の人の話を耳にした村上大知はだからといって図書室に行くわけではなく、その日を終わらせようとした。しかし、意識とは関係なく引き寄せられてしまうのであった。第一話のお話。

============================

 

高校一年四月。入学式も終わり、学校にも少しは慣れ始めただろう頃に生徒は未だ新しい新生活への期待や興奮が治まりきらない様子が大半だ。

しかし、こと村上大知に関してはそうではなく、眠い目をこすり、憂鬱気な顔で学校まで続く道を歩いていた。

「だからってそんな世界が終わったような全てが終わったような絶望した顔しなくたっていいじゃないか 」

横で歩く俺の学友、倉坂速人は苦笑いを浮かべている。

「速人、そうは言ってもな・・・何もやることがないこの学校を苦痛なひと時を楽しめというほうが無理というものだろう 」

「家にいても大して変わらないだろうに 」

何も言い返せなくなったので黙って歩く。高校に入ると同時に一人暮らしをすることになったので家にいるときはだいたい家事をするか寝ているかのどっちかなのだ。しかし、家にいるときは苦痛ではなくむしろ人に時間を拘束されることなく自分の時間を過ごせるので至福のひと時といっても過言ではない。だが、そんなことをこの男に説明してもそれこそ時間の無駄というものである。またなにかしらの否定的な返答が返ってくるだろう。

学校までの長い道のりを終え、靴箱にたどり着く。靴箱だからといって手紙が入っていたり、また逆に上履きに画鋲が入っていたりとそんなことはない。少なくとも俺に限ってはだが。速人のところにはぽつぽつと手紙が入っていることもある。まだ四月なのに女生徒から人気があるわけだが、速人の場合は、それを中身も確認せずにこちらにだけ笑顔を向け、細切れに破いてゴミ箱に捨てるのである。なんてやつだ。

教室に入るとクラスにはまだ両手で数え足りるぐらいの人数しか来ていなかった。どういうわけかうちのクラスには遅刻の常習犯が多く、その数はクラスの六割にものぼる。八クラスあるうちの学校でもこの数字は異常とされ、厳重警戒クラスにも指定されているそうだ。遅刻者を減らすための会みたいなものまで開催されることもあった。まるで効果を発揮しなかったのだが。俺は毎日時間までには来ている。だがそれも速人が毎日起こしに来るからであり、自分から進んで学校に行こうという気はまったくといっていいほどないのだ。

椅子に座ったときにひそひそとした声で話しているクラスの人は多い。朝から大声でまして人の少ない学校で騒ぐ人ほど迷惑なものはない。そのせいかひそひそ声は耳にしっかり届いてくるのであった。

「・・・最近図書室に幽霊が出るらしいよ 」

「・・・長い髪の女の人で図書室に入ってくる人をじっと狙ってるって 」

「図書室行けないじゃんこわーい 」

学校の七不思議なんてものはうちの高校にはない。仮にあったとしてもそれはきっと人目につくことなく起きていることだろう。きっと何かと見間違えてそれに話の尾ひれがついてどんどん膨らんでいるのだろう。

「幽霊なんていないさ・・・ 」

俺はつぶやいて机に突っ伏す。早く起きて学校に来ていることもあり、朝は一日のうちで特に眠くなる。自分の意思ではどうしようもないことだ。絶対に回避不可というやつだ。

もうすぐでまぶたが閉じるというときに頭を叩かれる。見ると速人が立っている。

「・・・どうしてお前はいつも決まって俺が眠りにつけそうな丁度いい頃にやってくるんだ。場を読め。朝のホームルームまでは自由な時間だ。誰がどこで何をしようと勝手なはずだろう?さあ、止めてくれるな俺は寝るんだ 」

「今はもうホームルームが終わった一時限目前の時間だ。ホームルームの間、寝ていることについて一切触れずに何もせずにそのままにしておいたことにむしろ感謝してほしいぐらいなんだがな 」

そう言って笑みを浮かべる。なんて嫌な笑みだ。妙に威圧的でそれでいて表面上は普通に接しているように見える。

そうこうしているうちにチャイムが鳴った。一時限目の始まりのチャイムだ。もちろん授業の準備などはしているはずもなく、鳴ると同時に入ってきた教師にこっぴどく怒られたのはいうまでもない。

一時限目は数学だった。学校の教科は何が好きですかというアンケートが学校内でたまに回ってくるが、好きな教科などない。むしろ嫌いな教科ばかりだ。際立って数学は俺の知る中で最も嫌いな教科だ。どこがと聞かれれば全部即座に答えるほどだ。耳に入ってくる言葉はどれほど聞いても暗号にしか聞こえず、ひたすらに耳に入り込んでくる音は意識を遠のかせていく。周りを見回しても俺と同じ数学嫌いはいるようで、頭を抱えている、寝ている、遠い目をしている等症状は様々だ。俺は窓際の席なので視線を窓の外へそらせばぎりぎり何とか意識は保っていられる。

学校の外には春だからといって桜の花びらが舞っているわけではなく、夏に向けて緑になってきた木々がかぜにあおられ揺らいでいる。学校正門まで続く長い通学路を見ることができ、我ながらいつもあの道を歩いているのかと思うと自分を少しほめてやりたい気分にもなる。あくまで気分だけだが。

ふとそこで正門に人影が見えた。シルエットで言えば女性だろうか。視力が高いというわけではないのではっきりとは見えない。うちの学校の制服を着ている。髪は一般的にいう長いといわれる長さだ。

(髪の長い女・・・ )

ふと朝のクラスの人の会話を思い出す。図書室に現れる長い髪の女性。

(いや、まさかな )

そうしてもう一度窓の外を見る。すると驚いたことにさっきまで見えていた人影はなく、代わりに何かがそこに落ちていた。

一時限目が終わり俺はゆっくりと教室を出た。教師に見つかると恐らく怒られるだろう。授業そっちのけで露骨に外を見ていたのだから。こっそり教室から出ることに成功した俺は正門付近に向かった。朝のためうっかり靴を履き替えることを忘れてしまいそうだったが、なんとかとどまり外用の靴に履き替えた。

落ちていたのは本に挟む栞であった。風が吹いているにも関わらずそれは舞って飛ぶことはなく、その場にあり続けていた。拾ってみるととても軽かった。その栞の表と裏には、四葉のクローバーと十字架の絵が描かれていた。

「なにやっているんだお前? 」

背後から声がしたので振り返る。そこには速人がいた。ばれないように出てもやはりこいつだけはごまかせないようだ。

「先生が授業サボって外ずっと見ていた罰として放課後荷物運びをしろだってさ 」

そして直接的には言ってこなかったが間接的に俺に制裁を加えてきた教師には素直に卑怯だと思わざるを得なかった。

◆   ◆   ◆   ◆   ◆

放課後。逃げる間もなく教師に半ば引きづられる形で荷物運びに参加させられるようになった。速人にも手伝ってもらうようお願いしたが、今日はどうしてもはずせない用事とのことで結局取り合ってもらえなかった。

運び始めて一時間が過ぎた頃、制裁として積まれていた荷物は大半運び終わり、あらかじめ渡されていたリストの中では残り一箇所となった。

「残る一つは図書室か・・・ 」

ダンボールを抱えて俺は図書室の扉を叩く。

「すみません。生徒指導室から荷物を届けに来ました 」

しかし、返事がない。どうやら電気はついているようだ。意を決し勝手に扉を開け入る。

「失礼します・・・ 」

図書館司書の先生がいるはずの部屋には電気がついておらず、誰もいないようだった。少し中に入り確認するが、やはり人気はない。

「荷物置いていきます・・・ 」

そういって貸し出しカウンターの前に荷物を降ろす。そのとき、開けたままにしておいたはずの図書室の扉が突然閉まった。続いて鍵が閉まる音。

急いで扉まで走ったが、扉は開かず、内側には開けるための鍵はなかった。そう、閉じ込められたのだ。

ふとそのとき、背後に視線を感じた。急いで振り返ってみるとしかしそこには誰もいなかった。だが、それは思い違いで図書室のずっと先、つまりは図書室の端でこちらを見ている女生徒の姿がそこにはあった。

(長髪で女の幽霊・・・ )

身体がこわばるのを感じる。足はその場から動かなくなる。

彼女はこちらへ少しずつ近づいてくる。じっとこちらを見据えたまま。そしてその姿を性格に見える位置まで歩いて来た。時間が止まったように少しの間があった。彼女は口を開く。

「・・・あなたは誰 」

------------------

第一話 終

 

広告

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中