親愛なる片恋泥棒


「親愛なる片恋泥棒」

著:まつくぼっくり


わかってる、気づいてるで、しょ
(いつまで泣いてるの)
わかんない、気づかないふり、です
(楽しみ方は知っているから)

 

 

 

───────────────────────────

 

 

今日は会えるかな、話せるかな、って朝起きた瞬間からそのことしか考えてなかった月曜日午前8時14分。
混雑する車内の端っこ、つり革に掴まりながら電車の揺れに身を任せるあの猫背を見つけちゃうなんて、私って天才?

「先輩!!」

ポケットサイズの手鏡に映した今日の私、も完璧!って勢いつけてかけた声は思いのほか車内に響き渡っちゃって。
やっちまったと思ったときにはもう遅い、恐る恐る見上げた先輩の顔はまたほら、呆れて冷たい目で見られてる、って。

「何度言ったらわかるの、朝からうるさいって、」

「へへ、先輩、おはようございます!」

「…飽きないね、君も」

そう言ってそっぽ向くくせにきっとまたデモテープでも聞いてたであろう先輩愛用のイヤホンはちゃんと取ってしまってくれちゃったりするから。

「せーんぱい。おはようございますって言ってます!」

「ん、おはよ」

たったそれだけで今日の私は一日ハッピーデーになっちゃうんだからお安いもんでしょ?

本当はどうでもいい3時間目の化学の話をしてみたり、昨日やってたお笑い番組を語ってみたり、っていつも私が一人でしゃべってるようなもんだけどそれでいいんです。
だって話を聞いてるときの先輩の顔も好きなんだもん。

だからそんな夢みたいな時間がいつまでも終わってほしくないって何度も思うのにあっという間に着いた学校の前。

「先輩、それでね、」

「裕介!」

一生懸命話を続けようとする私なんか見えてないの?ってそぶりで先輩にかけられた声の先には学校一の美人、なんて謳われてる麗香さんだから。

「おはよ、麗香」

「今朝はずいぶんゆっくりなんだ?ちゃんとデモテープ聞いたの?」

「うるさいな、完璧」

私になんて一度も見せたことないような楽しそうな先輩の想い人が誰か、なんてわかりきってますよもちろん、ね。

軽音部でギターをかき鳴らす麗香さんとその後ろでドラムを叩く先輩(すっごいかっこいい)はどっからどう見てもお似合い、だなんて言わせません。
突如弾けた夢の時間はきらきら破片だけいつも飛び散って、先輩には届かない、のかな。

「じゃあ先輩、私行きますね!」

「あぁ、うん…寝ちゃだめだよ、授業」

「任せてください!ばっちり起きときます、ふふ」

でも悲しい顔なんて見せませんよ、勝手にすきなのは私だもん。落ち込む資格とかないですから。
授業中睡眠の心配なんかして先輩がポッケから取り出した飴は私の好きな味、をくれたりしちゃうから。
だからその代わりに。

「あ!先輩!今日も大好きです!!」

「…ん、ありがと」

もはや日常になった先輩への告白も、ありがと、って微笑んでくれるこの顔が見られるから無駄じゃないんです、その一回一回にいつまでもちゃんと緊張してるんですよ、なんてのは伝わってないんだろうけどね。

───────────────────────────

「裕介先輩、好きです…!」

とっさにしゃがみ込んだ私の視線の先、放課後の中庭、なんてありきたりな場所で今まさに告白せんとするその場から離れられないのはなんて答えるのか気になってしまうか、ら。
だめ、戻ったほうがいいよ、そう頭ではわかってるのにどうしたって足が動いてくれないんです。

「…ありがとう、でもごめん」

「なんで、裕介先輩彼女いないです、よね?」

「うん、いないよ」

「だったらなんで…!」

「ずっと、好きな子がいるんだ。その子しか見えない、なんて。ごめん、失礼なこと言ったね」

「それって、麗香先輩ですか?」

「…変な噂は立ててほしくないな、相手に迷惑になるでしょ」

 

駆け足で遠ざかっていく一人分の足音と、こっちに向かってくる一人分の気配が今の自分には耐えられそうもなく、て。
寂しげに笑った先輩の顔が頭から離れないままそこを動けないでいる私になんでこんな時ばっかり気づくかなあ。

 

「何してるの、そんなとこで」

「え、へへ…たまたまですよ?通りかかっただけです、わざと見るつもりなんてなくって!」

 

顔を上げられずにいつもよりほんの少し早口でまくしたてた言い訳は思ったよりも言い訳っぽくなっちゃったからこれじゃ後でもつけてたみたいじゃ、ん…!

 

「…聞いてた?今の」

「だからあれですよ、聞くつもりもなかったんですって、っ今日は帰りますね、ごめんなさい、」

「え、」

 

何か言いたげな先輩の言葉は普段なら絶対聞き逃したりしないしむしろ先輩から話しかけてもらえることなんてほんとに貴重なことなのに、どうしてもズキズキと痛む胸を知らんぷりすることができなくて逃げるように走ってきた校門前。

待ち人のために寒空の下、今朝電車内で見たのと色違いのイヤホンをつけて壁に寄りかかる麗香さんを見つけてしまったらもう息なんてできなくなりそうで。

 

「…っはぁ、ほんと最悪、今日はせっかくのハッピーデーだったのに」

 

私が勝手に好きなだけ。
断られてもどうしてもどうしても好きで諦められなかったってただそれだけ。
きっと迷惑なだけの毎日の猛アピールも笑って許してくれちゃう先輩が、好きなだけ。

時々考えてしまうネガティブな自分はしまうって決めたのに、
…先輩、いつか私を好きになってくれる確率って何ぱーせんとです、か?

 

 

 

───────────────────────────

自分に嘘はつきたくない、って。
だって私だけの世界でしょ?
(ミラクルな未来、お願いやってきて!…なんて。)

 

 

 

 

「先輩おはようございます!」

「…うん、もう昼だけど」

「そうでした、って、先輩すっごい隈!どうしたんですかそれ徹夜です、か?」

「あぁうん、ちょっといろいろ考え事してたら朝になってた」

「考え事!?先輩にそんな悩みがあったとは…」

「うるさいよ、馬鹿にしてるでしょ。あ、そうだ、」

 

いつも通り話せてるよ、ね?
今日も今日とて見つけた車内の猫背には声をかけられなかったわけだけど。

大丈夫、家を出る玄関の鏡の前で3回もおまじない唱えてきちゃったんだから。今日の私は強いのです!だから大丈夫なのです。話があるから放課後残って、なんて言われてもそれが何の話だとしても上手に笑えるはずなの、です。

 

 

 

 

「遅い、もう下校時刻になっちゃったじゃん」

「へへ、ごめんなさいちょっと野暮用がありまして(笑)」

 

残って、と言われた放課後が来るな来るなっていくら願っても時間は人類に平等に進むわけでもちろん、私にも放課後は来てしまうわけで。
じゃあちょっとでも時間稼いでみない?なんて現実逃避もほどほどにしてやっとの思いで向かった先輩の教室に、いつも先輩が使ってる教室なんだぁ、なんてときめいちゃってんだから末期だってね。

 

「昨日、さ。」

「はい、」

「帰りなんか変だったでしょ。いつもの君らしくなかった」

 

いつもならやさしさに感じるその言葉が、今はひどく胸に突き刺さる。
ねえ、先輩は私の”いつも”がわかるほど私のこと見てない、って私が一番わかってるんですよ?まだまだだなあ先輩も。とか口に出せない代わりに悪態ついてみたって肝心のその心は冷えていくばっかりだからやんなるなぁ。

 

「そ、ですか?お腹すいてたからかなぁ」

「…言いたくないならまあいいけどさ。」

 

片付けを始めてるサッカー部の声がグラウンドに響いているのを聞きながらこれから話されるのは麗香さんへの想いの口止め?大丈夫、私言いませんって。

それともお付き合い始めましたと、か?いやいや私ごときに報告なんていらないですよ?
とまで考えたら浮かんだ答えにまたズキズキし始める心臓をよそに、

 

「この席、誰の席かわかる?」

 

自分がもたれかかってる机を指して呟く先輩のその席が誰の席かなんせ知らないし知りたくもないの、に。
((お付き合い始めるからもう好きでいるのやめて、って言われちゃうためにここにきたの、に。))
急に私の手が引っ張られてその席に座らされるとか意味わかんない…!

 

「ちょ、先輩なんですか、」

「何で避けるの」

「別に避けてなんか、先輩どうしたんですか…?今日変、」

「変なのは君でしょ、朝声かけてこなかったくせに」

「え…」

 

これ俺の席、って言いながら私を座らせた前の席に自分も座り込んでこっちを向いた先輩に未だ私の手は掴まれたままで。
なんで先輩がそんなこというの。私のことなんて気にしてないくせに。

 

「俺、麗香と付き合ってないよ」

「知ってますよ、でも好きなのも知ってます!私にそんなこと言ってどうするんですか、それとももう告白も受けてくれないってことです、か!」

「…君はさ、俺のどこが好きなの。」

 

は…!?突然なに、今日の先輩ほんとおかしい…!!
いつもより少しばかり冷たい目線に無性に泣きたくなって。
でもだめ、約束したんだよ私、泣いたりしないって、”好きでいても良いけど勝手に泣いたりしないでね”って2度目に想いを伝えたときに約束したんだって。

 

「言、ったら好きになってくれるんですか」

「…聞かせてよ」

 

苦し紛れ、いつもみたいに、どうかなって笑ってもらおうと思って言った言葉になんで自分が苦しめられてんの、私。
あんなに好きなはずの先輩のことがなんだかもう見れなくて。
下を向いてきゅ、っと座る自分のスカートを握ればあっという間にぽろぽろ想いがこぼれてきちゃうか、ら。

 

「…っ好きですよ!!!周りをよく見て気にかけてるとことか、困ってる人見るとほっとけないくせに不器用でなかなか伝えられないとことか、ドラム叩くときのとびきり楽しそうな顔も、仕方ないなって私をいつも許してくれるときの表情も、こんなに想ったって絶対好きとは言ってくれないところも、それでも諦めなくていいように優しい猶予をくれてるのもせんぶ、せんぶ…!!」

 

途中から何言ってんのかすらわからなくなって結局ぐしゃぐしゃに泣きながら伝えてしまったそれはいつもよりずっと重くて痛くて。あー、どうしたらいいの、なんでこんなことになった、の。

何も言わない先輩(自分が言わせたくせに、)をいいことに勝手に自暴自棄に浸っていれば急に挟まれた私の両頬に触れてるのが先輩の手だったりするから…!

 

「なんですか!」

「好きだよ」

「は…?」

「…顔くちゃくちゃ、ひどいねこれ」

 

笑いながら自分のセーターの袖を伸ばして私の顔に押し付けてくる腕にかき回されておかしくなる思考回路。

 

「…俺は誰が好きなの?」

「れ、いかせんぱ、い…?」

「…ぶー」

「だ、ってそんなわけ、」

 

イヤホンは部活のやつらみんなお揃い。なんて言われるけど反射的に答えるのはいつだって先輩が目で追ってたはずの彼女の名前、で。
なのにそんな可愛く判定されちゃったら私だって期待する。するよ先、輩。

 

未だ頬を両手で挟んだまま、それでも今まで見た中で一番優しい表情をした先輩は涙で濡れて目にかかった私の前髪をふー、とかおでこに息を吹きかけて整えてきたりするから、さ!

 

「…っな…」

「もうちょっと、自分に賭けた思い、信じてあげれば?」

「ほ、んと?先輩、ほんとに、」

「裕介、って呼んでみ」

「や、そ、れは……むり、」

「はーやーく。」

「…ゆう、すけ、」

 

せんぱい、と既に舌っ足らずな私がやっとの思いで初めて口に出したその名前は驚くほど甘美で穏やかで呼び捨てなんて無理に決まって、る。

 

「…最初はめんどうな子に好かれたな、って思ったよ。俺の大事な睡眠時間奪って、さ。でも君諦めないんだもん」

 

俺の負け、って楽しそうに笑うから私はまた涙が止まらなくなっちゃうんです。

 

「…私のどこがいいんですか」

「…んー、裕介、って呼ぶの慣れたら教えてあげる」

「ちょ、そんなのずる、んっ…、」

「帰ろっか」

 

顔真っ赤、って余裕気な先輩とは裏腹に突然されたそれにまだ息ができないうちにとっとと歩いていってしまう猫背な後姿を追いかけて。

 

「~~~先輩!裕介先輩!」

「…なに」

「今日も大好きです!」

 

 

 

 

 

どうかずっと前を向いててね、落ち着いてまっすぐ歩けたら、こんなに魅惑的な未来が待ってるから、って。
去年の私に言っても信じてもらえないかも、ね。

 

 

 
夢なんて見なきゃ始まらない
(だって明日は輝くかもしれないし)
夢を見させて始めたいから
(胸が騒いだらそれが合図)

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Title:誰そ彼

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