ほんとのきもち


ほんとのきもち

著:もなみ。 

■あらすじ

素直になれない小学6年生の健斗は幼馴染の香央ちゃんに想いを寄せていた。
けれど、思ってもいないことを言い放ってしまい香央ちゃんを傷つけてしまう。
果たして健斗は香央ちゃんと仲直りすることができるのでしょうか?

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卒業まであと2ヶ月。

小学6年の冬。
おれは、もうすぐ中学生になる。

だけど、中学に入ったら香央ちゃんとも離れ離れになる。
香央ちゃんは私立受験に合格したので、おれなんか手も届かない存在になる。

「ケンちゃん、そんなとこで何してるの?」
「おっ、岡田…別に何もしてねーよ」
岡田こと、岡田香央。小さい頃からずっと”香央ちゃん”って呼んでたけど周囲の友達にからかわれて以来、”オカダ”と呼んでいる。
香央ちゃんは、未だにおれのことを”ケンちゃん”と呼ぶ。
戸村健斗だから”ケンちゃん”。もう中学生になるのに一向に変わらない呼び名。

意識してるの、おれだけかよ。

こんな状態で卒業したら、ずっと”ケンちゃん”のままなんだろうな。
そんでもって、私立のイイオトコ捕まえてそのまま結婚しちゃったり…

そんなおれの頭も通常運転で。
精神的にも見た目も成長しないおれが香央ちゃんの目に”男”って映らないのは分かり切っているんだ。

「ケンちゃん、今から帰るなら一緒に帰ろうよ。もう部活ないんでしょ?」
おれの嫌な返答にも、そんな言葉をかけてくれるのは香央ちゃんだけだ。
「はー?なんでお前と一緒に帰んなきゃいけねーんだよ」
しかし、おれの口から出てくる言葉はこんなもん。どうしてか、嬉しいのに素直になれない自分が出てくる。
出てけ!おれの天邪鬼!!
「だってお家、お隣同士でしょ?一人で帰るの不安だから」
ちょっと落ち込んでいる香央ちゃんの顔を見たら、すごく自分が嫌になった。

おれは、振り返って香央ちゃんの表情を伺った。
「帰るんだろ?」
すると、香央ちゃんはとても嬉しそうに笑った。そんな笑顔のおかげで、おれの罪悪感は一気に吹き飛んだ。

***

次の日、教室の黒板には大きな相合傘が書いてあった。
しかも、そこに書いてあったのは―――――”戸村”と”岡田”の文字。

「見たぜ、昨日二人っきりで帰ってるの~!」
クラスの奴らが冷やかす。
あの時と一緒だ。”香央ちゃん”って呼んでいるのをバカにされた時と同じ。

恥ずかしかった。
まるで、自分の気持ちを知られてしまったかのようで。
恥ずかしくて隠したくて、ただそれだけだった―――――

「そんなわけねーだろ、あんなブス…」

気配に気づき、振り返るとそこには香央ちゃんの泣き顔。
もう、完全に嫌われてしまった―――――――

「ごめんね」

泣き顔のまま一生懸命に笑って立ち去る姿を
おれは追いかけることができなかった。

最低なのは、こういう素直になれない自分だ。
分かってるのにいつも行動は反対方向へ進んでしまうんだ。

***

「おい、健斗。俺の貸したゲームどこやった」
兄貴の昌史はおれの睡眠をいつも邪魔してくる。
兄ちゃんは高校2年でおれと5歳違いだ。

「せっかくの休みなんだから外で遊んで来いよ。それとも久々に俺とキャッチボールでもするか」
たしかにキャッチボールでもすれば気は晴れるだろうが、今はそんな気分ではない。
香央ちゃんの、あの泣き顔が引っかかって何もやる気が起きない。
「さっきゲーム返せって言ってたんだからゲームしてればいいだろ」
「部活終わったからってだらけてんじゃね―の?そんなんじゃ中学でレギュラーになれねーぞ」

そんなこんなで兄ちゃんに外へ連れ出された。
しかし、玄関を出ると今一番合いたくない子がいた。

「あれ、香央ちゃんじゃん」
母親同士が仲がいいので香央ちゃんのことは兄ちゃんもよく知っている。
「あ、マサくん、こんにちは……ケンちゃんも」
今、間があったよな…
「…おう」
そっけない返事で精いっぱい。この距離感がとても嫌だ。モヤモヤはより強くなる。
「香央ちゃん、これからどっか行くの?もし暇なら3人でキャッチボールしない?」
え…!?なに誘ってんだよ!!兄ちゃん空気読めないのかよ…!?
「あ、ごめんなさい。今日は、お友達と約束があるから」
「そっか、んじゃまたな」

香央ちゃんの後ろ姿は、どこか寂しそうで。
おれは、その姿を見ているだけで胸が熱くなって苦しかった。

とんでくるボールをボーっと眺めながら香央ちゃんのことを考えていた。
「健斗、香央ちゃんと何かあった?」

ゴッチーーンッ
眺めていた野球ボールはおれの顔面に直撃した。
「え?…図星!?」

兄ちゃんに知られるのは嫌だったが、不機嫌な顔はどうしても隠せない。
「兄ちゃんなんかに分かってたまるかよ…」
「なに、振られちゃったの?」
あちゃーと笑っている兄ちゃんには、どこか余裕があった。
「ちがうっ」
おれは思い切り否定をすると、今度は困った顔をして「女はよくわかんねーよな」とつぶやいた。

「え…兄ちゃん、彼女いたことないのに何言ってんの?」
「失礼な…いるよ、彼女」
そんな照れくさそうな兄ちゃんの顔を初めて見た。
「えーーー!」

質問したがるおれの心を察したのか、再びボールを投げてくる。
聞いても教えてくれなそうだ。おれも香央ちゃんのことは話したくない。

キャッチボールは会話なしでも十分すぎるくらい楽しかった。
兄ちゃんは何も言わないけど、そのキャッチボールのおかげで少し気が晴れた気がした。

***

気まずくなってしまった原因はそもそも、おれだ。
きっと、香央ちゃんの方が何十倍も傷ついている。

あやまろう。

やっと気持ちに整理がつき、冷静になれた気がした。
なんだかんだ、兄ちゃんには感謝だ。

学校の校門で香央ちゃんを見つけた。
すぐさま、駆け寄って謝ろうと思った。しかし、おれより先に同じクラスの杉本が香央ちゃんに駆け寄る。
とても楽しそうに話をしはじめたので、おれの入る隙はなくなってしまった。
杉本は男子の中でもズバ抜けて頭がよく、女子ともフツウに会話ができるタイプ。女子と一緒にいることをからかわれても全く動じない。俺とはまるで正反対だ。
しかも香央ちゃんと同じ私立中学に進学するのだ。

なんだあれ…
まるで香央ちゃんのこと好きみたいじゃん

いや、もしかしたら香央ちゃんも杉本みたいなヤツがいいのかも……

結局、謝ることができず何日も経っていった。

***

「チョコ誰にあげる?」
クラスの女子がそんな話をして盛り上がっていた。

もうすぐバレンタインデーか。
おれは、なんだかんだ毎年のように香央ちゃんにチョコもらっていた。まぁ、もちろん「友チョコ」って渡されているんだけど…
今年はきっとないんだろうな。関係はギクシャクしたままだし。

今年は杉本にあげるのかな…

「杉本くんカッコいいよね」
“杉本”という単語が耳に入ってくると、どうしても耳に入ってきてしまう。
「頭いいし、優しいよね。でも最近、岡田さんと仲いいよね」
「学校も一緒になるしバレンタインで付き合っちゃったらどうしよう!?」

そうか。本命なら告白して付き合うこともあり得るのか。
恐ろしやバレンタインデー…
なんて思ってる場合じゃない、香央ちゃんが付き合ってしまったら…

でも、大事なのは香央ちゃんの気持ちだよな。
おれには関係ない…

***

バレンタインデー当日
学校はすっかりチョコの匂いで充満していた。
杉本のことを考えると、どうしてもその日はイライラが抑えきれなかった。
おれは、そんな甘ったるい日が早く過ぎ去っててしまえばいいと思った。

帰り道。
最悪の場合を想定していたけど、実際に見たくはなかった光景を目撃してしまった。
それは、香央ちゃんと杉本が仲良く2人きりで帰っている様子。
実際に目の当りしてしまうと、想像以上にショックだった。
2人は付き合うことになったのだろうか。杉本の持っていた手提げカバンからは、ひっそりとお菓子の包装紙が見え隠れしていた。

もう、おれは何もせずに諦めることしかできないんだ。
いや、なにもできなかったんじゃない。何もしなかっただけだ。
後悔に押しつぶされそうで歯を食いしばる。

おれは楽しそうな2人を見ていたくなくて、遠回りをして家に帰ることに決めた。
好きな子から当たり前のようにチョコがもらえた今までの日を大切にしてこなかったからバチが当たったのかもしれない。

「…ケンちゃん」
家に入ろうとした瞬間、後ろから香央ちゃんの声がした。
おれの名前を呼んだ気がする。

「あの、コレ。マサくんにいつものバレンタインチョコレート渡してほしくて」
ああ、なんだ。兄ちゃんにか。そうだよな…
「…あぁ、わざわざ届けてもらって悪いな」
早く家に入りたかった。こんなカッコ悪い今の顔、香央ちゃんに見られたくない。
「あと…こっちは健斗くんに。食べたくなかったら捨てて」

そう言って、帰っていってしまう香央ちゃんの後ろ姿を見ていたら

―――――――――――――――待って…!

抑えきれなかった。

「香央ちゃん…っ」
気付くと香央ちゃんの腕をぎゅっと握っていた。

「おれ、香央ちゃんのこと、好きだ…」

何言ってんだ、おれ。
勢いで言い放ってしまった言葉は後戻りできるわけなくて。

「今までごめん、ずっとずっと好きで思ったこと言えなくて…それでおれ、あんな酷いこと…」

告白してしまったことが恥ずかしくなって、ちょっとパニックになり、思うように喋れない。
「あー!もう!だから、何が言いたいかっていうと…」
しかし、無意味な言葉はどんどん出てくる。まるで香央ちゃんの声なんか耳に入らなかった。

「ケンちゃん、わたしも」
「ごめん、おれ…ずっと謝ろうと思ってたんだけど…」

「わたしも、ケンちゃんが…すき」

え?今なんて…?
そう聞こうとした瞬間、香央ちゃんが嬉しそうに泣くから
おれはまた、どうしようもなく謝りたい気持ちでいっぱいになったんだ。

今度は、もっと幸せな顔にしてあげられるように。
もう、大切な人に嘘はつかないんだ。

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END

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